今回は相談事例を通じて、死後事務委任契約による遺品整理について、ご紹介します。
私はもうすぐ70歳で、90歳の母と2人で暮らしています。現在は私も母も元気に過ごせていますが、どちらが先に亡くなるのだろうかと不安に思い始めました。1番心配なのは自宅の荷物の片づけのことです。もし私が先に亡くなり母が残された場合、母に家の片づけができるとは思えません。そうすると誰が家の片づけをしてくれるのでしょうか。
また、母が先に亡くなり私が残された場合でも、私に家の片づけをする元気が残っているのか心配です。私は未婚独身で子供もおらず、兄弟姉妹もおりません。親族付き合いもなかったため、頼れる親族もおりません。何かよい方法はありますか。
ご自身が亡くなった後の事務手続きを、家族や親族が行えない場合を想定して、死後事務委任契約を締結することを検討してはいかがでしょうか。死後事務委任契約では、ご相談者様が心配されている家の片づけ(以下、遺品整理)をお願いすることができます。
死後事務委任契約とは、ご自身が亡くなった後の事務手続きを第三者に依頼(委任)する契約のことです。死後事務委任契約でお願いできる具体的なことは、遺品整理のほか、ご自身の葬儀や火葬、納骨・埋葬、ライフライン契約の解約等があります。
遺品整理とは、ご自宅もしくは施設に入居していれば入居施設内の、家財道具や生活用品の整理・処分のことをいいます。整理・処分の方法としては、廃棄や売却、形見分けなどがあります。
デジタル遺品といわれるスマートフォンやPC、タブレット等の機器には個人情報が残されている場合がありますので、処分の際には必要に応じてデータを破壊処理することができる事業者に依頼し、その上で機器を廃棄するなど、気を付けていただくとよいでしょう。
また、死後事務委任契約の受任者に対して遺品整理を任せられる範囲は、換価価値がない(売れない、若しくは売れてもわずかなお金しか得られない。)ものに限られる点にご注意ください。長年所有していても、価値が下がらない(売ってお金に換えられる)もの、例えば高級腕時計や宝石、貴金属等を死後事務として売却や形見分けをしてしまうと、相続財産を処分したことになり(民法第896条)、トラブルになる可能性もあります。
トラブル防止のため、お元気なうちにご自身が所有している物について整理し、高級腕時計等の価値の下がらないものがあれば、ご自身が亡くなった後、それをどうしたいのか、売却して売却金をみんなで分けてほしいのか、誰か1人に形見分けしたいのかを考え、その思いを遺言に書いておくことをお勧めします。死後事務委任契約と遺言はセットで作成するとよいでしょう。
親子で高齢となり、頼れる親族がいないという場合は、どちらが先に亡くなるか分からないため、親子で各々死後事務委任契約を締結しておくと安心です。死後事務委任契約について詳しく知りたいという方は、死後事務を引き受けている専門家に相談してみてはいかがでしょうか。