自分が株主である意識のない方がいる場合、この株式はどう取り扱えばよいのでしょうか?
父は、昭和50年設立の株式会社甲社を経営していました。
父が亡くなり、相続税の申告を行うことになりましたが、甲社の株式について悩んでいます。
株主名簿を見ると、父のほかに、父の兄弟や、すでに退職した元従業員、取引先の方などの名前が記載されています。ただ、これらの方は自分が株主であるという意識は、これまでなかったようです。
相続税の申告では、父名義の700株だけを相続財産として申告すればよいのでしょうか。
- 父:700株
- 父の兄:50株
- 父の弟:50株
- 元従業員A:50株
- 元従業員B:50株
- 取引先社長C:50株
- 取引先社長D:50株
相続税では、株主名簿に誰の名前が載っているかだけでなく、実際に誰が株式を持っていたといえるかを見て、相続財産に含めるかどうかを判断します。名義だけが他人になっている場合、その株式は「名義株」として、被相続人の相続財産に含まれることがあります。
「名義株」とは、株主名簿には名前が載っているものの、実際には出資もしておらず、配当も受け取っていないなど、実質的には株主とはいえない株式を指します。
税金の世界では、名簿上の名前よりも、実際に出資し、利益を受け、株主として関与していたかという点が重視されます。
次のような状況がある場合、名義株である可能性を検討することになります。
- 株式を取得する際のお金を出していない
- これまで配当金を受け取ったことがない
- 株主総会に出席したことがない
- 自分が株主だという意識がなかった
これらの事情が重なっている場合、株主名簿に名前があっても、真の株主ではないと判断されることがあります。
名義株の問題は、平成3年(1991年)4月1日の商法改正以前に設立された会社で見られることが多いです。
当時は、株式会社を設立する際に、
- 発起人を7名以上集めなければならない
- 発起人はそれぞれ1株以上を引き受ける
といった法律上のルールがありました。
そのため、親族や従業員、取引先などの名前を借りて発起人とし、出資は代表者1人がまとめて行うという形で会社が設立されるケースも少なくありませんでした。
このような経緯から、名簿の名義と実際の所有者が一致しない株式が生じやすく、現在の相続や事業承継の場面で問題となることがあります。
名義株にあたるかどうかは、次の点を総合的に確認して判断します。
- 会社設立時の出資の状況
誰が実際にお金を出したか、払い込み記録が残っているか - 増資があった場合
増資のお金を誰が負担したか - 配当金の状況
配当の有無、振込先、実際の受領者 - 株主としての関わり方
株主総会で議決権を行使していたのは誰か - 名義人本人の認識
自分が株主だと理解していたか
これらを一つひとつ確認し、形式ではなく、実際の状況に即して判断されます。
今回の相続について調査を行った結果、対象となる株式が名義株であると判断された場合には、その株式は被相続人の相続財産として申告することになります。
また、今後のトラブルを防ぐために、
- 株主名簿を実態に合わせて整理する
- 必要に応じて「名義株に関する覚書」を作成する
といった対応を検討することが考えられます。
今回の相続とは別に、将来の相続や事業承継に備えるためには、次の点を意識しておくと安心です。
- 配当金は株主名簿に記載された名義人へきちんと支払う
- 株式の名義変更は、取締役会など正式な手続きを経て行う
- 子や孫へ株式を移す場合は、贈与税の申告など必要な手続きを行う
- 株主名簿と法人税申告書別表二の内容を一致させる
こうした点を整えておくことで、将来の相続時に名義株をめぐる悩みを減らすことにつながります。
<参考>
法基通1-3-2、最高裁判所第二小法廷昭和42年11月17日判決、国税不服審判所裁決事例集41−290頁ほか
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